【目次】
▶ プレート境界に“入ってくるもの”を知りたい
▶ 地震波構造探査
▶ 2つの海溝で全く違う、断層の分布と成長の度合い
▶ 違いの原因は、過去の海嶺軸と現在の海溝軸の成す角度
▶ 海洋プレートによる地球内部への水輸送
探査から得られた千島海溝と日本海溝側の地震波反射構造断面が図6です。右側が沖合で、左側が海溝軸です。
このあたりは堆積速度が速く、断層により形成された地形が埋まってしまいます。しかし先行研究により、海溝軸に向かって手前80㎞あたりからは断層の発達が海底地形からも認められることが知られています。
続いて、現在公開されている海底地形のデータを解析して、プレートが沈みこんでいく中で、海底の段差が平均的からどれくらいぶれているかを調べました(図7、8)。
その結果、千島海溝側では4~5㎞に1つの断層があり、断層の高い所と低い所の差(比高)は400m以下でした。それに対して日本海溝側では、15~20㎞に1つの断層があり、断層比高が800mにも達しました。千島海溝側と日本海溝側ではアウターライズ地震断層の分布と発達の度合いが違うことが、明らかになったのです。
解析から、海洋プレートに取り込まれる水の量が違ってくることがわかりました。
地震波には高速のP波(1.5~8.5㎞/秒)と、低速のS波(0.2~4.5㎞/秒)があります。どちらも水を含む岩石の中を通るときには遅くなりますが、S波の方がより顕著に減速します。P波の速度(Vp)とS波の速度(Vs)の比「Vp/Vs比」(図9)は、乾いて圧密された岩石だと√3(=1.73)になるとされています。しかし、水が流入していたり、水を含む含水鉱物だとS波の方がより遅くなって、Vp/Vs比は大きくなります。ですから、Vp/Vs比を求めれば、水が入った可能性の高い場所をイメージングできるというわけです。
解析したP波の速度と、Vp/Vs比を見ましょう(図10)。
千島海溝も日本海溝もP波は海溝に向かって徐々に落ちていきます。その減速は、ちょうど断層ができているあたりからでした。Vp/Vs比は、海溝に向かって黄色い領域が増えています。すなわちS波の速度が低下している、水が流入していることが示唆されます。この傾向は、日本海溝側の方がより顕著でした。大きく発達した断層により海水が流入していると考えられます。