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話題の研究 謎解き解説

地球温暖化で、台風の強風域が拡大

【目次】
台風の構造は、地球温暖化でどう変わるのか
地球全体を長期間且つ高解像度でシミュレーション
台風の強風域が拡大

地球全体を長期間かつ高解像度でシミュレーション

地球全体を長期間かつ高解像度でシミュレーションするとなると、それこそ計算量が莫大になるのでは…?

はい、地球全体を長期間かつ高解像度でシミュレーションするのは非常にチャレンジングです。しかし、それを可能にしてくれると我々の研究チームが注目したのが、全球雲解像モデル「NICAM(ニッカム)」(Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model)(図3)と、スーパーコンピュータ「京」(写真2)です。NICAMは東京大学とJAMSTECと理化学研究所が中心となって開発したモデルです。従来のモデルは、台風を構成する雲を経験則に基づき表現したため不確かさがありましたが、NICAMは物理法則に従い雲の生成・消滅を計算することで、経験則に起因する不確かさを除去して台風を表現することを実現しました。


図3 NICAMの区切りのイメージ。区切りは正20面体で、幅は800mまで細かくできる。

スーパーコンピュータ「京」は1秒間に1京回(10の16乗)の計算をこなすスーパーコンピュータです(写真2)。


写真2 スーパーコンピュータ「京」(兵庫県神戸市)。写真提供:理化学研究所

私の上司であり、NICAMの開発にも携わり数多くの実績を持つ小玉知央ユニットリーダーが、「京」を用いて、格子幅14㎞のNICAMで、台風を表現しながらも地球全体を数十年に及ぶシミュレーションに成功しました。このシミュレーションでは観測データをもとに現在の気候(1979年から2008年まで)と、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル;Intergovernmental Panel on Climate Change)で発表されているCO2濃度の将来変化シナリオ(A1Bシナリオ)とそのシナリオに基づく海面水温の将来予測をもとにした将来の気候(2075年から2104年)であり、のべ60年分です。格子幅14㎞のシミュレーションは過去にも実績がありますが、ここまで長い期間は初めてです。そのシミュレーションの一部を動画にしたものが、こちらです(シミュレーション)。


シミュレーションの一部を動画にしたもの(中野 満寿男 技術研究員提供)

将来気候では、地球全体で平均した海面水温の上昇は約1.3度でした。私は、小玉さんのシミュレーションデータを使って、地球温暖化による台風の活動や構造の変化について解析しました。データは400テラバイトにも達し、扱いが大変でした。