地球温暖化で台風が強くなる可能性が、これまでの研究から指摘されています。ならば、台風の構造はどう変わるのでしょうか。それを明らかにしたシミュレーション結果が、このたび報告されました。
地球温暖化が台風の活動と構造に及ぼす影響
―強風域拡大の可能性を示唆―
この研究を気候学の専門誌「Journal of Climate」に発表した山田 洋平ポストドクトラル研究員にお話を聞きます。
【目次】
▶ 台風の構造は、地球温暖化でどう変わるのか
▶ 地球全体を長期間且つ高解像度でシミュレーション
▶ 台風の強風域が拡大
大学時代は物理を専攻し、卒業研究では数値計算をしました。大学院は別の大学の修士課程に進学し、モデルを使った台風の研究をしました。この時に、台風は色々と理論的に考察されていて面白いと感じたことを覚えています。大学院修了後は企業に就職しました。仕事でモデルを使って環境への影響などを調べたりする中で、次第に、自分でモデルを開発したい、シミュレーションでもっと研究したいと考えるようになりました。ちょうどJAMSTECで公募が出ていたので採用試験を受けて、2008年に着任しました。グループのメンバーにも恵まれ、シミュレーションを使った地球温暖化実験や解析などに取り組ませてもらっています。仕事をしながら博士課程にも進学し、学位を頂きました。
地球温暖化と台風の関係については多くの研究が行われています。先行研究では、地球温暖化が進めば、台風の発生する数は減るけれど強い台風の割合が増える可能性が指摘されています。しかし、台風の構造がどう変わるかはわかっていませんでした。それを明らかにしようと、今回の研究を始めました。
シミュレーションでは、まず地球表面を細かい格子に区切り、その格子点一つひとつで温度や風の強さなどが時間とともにどう変化していくのかを、物理法則に基づく方程式系によって構築された気候モデルを用いて計算していきます(図1)。格子を細かくすればするほど精度が上がりますが、計算量が莫大に増えてしまいます。莫大な計算を高速に実施するには、高性能なスーパーコンピュータや、そのスーパーコンピュータの性能を最大限に活かす技術開発が必要となります。
従来のモデルでは、数百年など長期間をシミュレーションする場合には、多くの場合が格子幅を数百㎞にしていました(図2)。これでは数百㎞スケールの現象である台風を的確に表現できず、構造がどう変わるのか詳細まではわかりませんでした。
かといって格子幅を10㎞以下など細かくすると、長期間地球全体をシミュレーションするのが難しく、範囲が限られてしまいました。
その通りです。台風は、一つひとつ構造も活動も異なります。台風が大きいからといって必ずしも強いわけではありません。そうした台風が温暖化でどう変わるのか傾向を知るには、できるだけ多くのデータを集めて統計的に見ることが必要です。それには、地球全体を長期間かつ高解像度でシミュレーションしなければなりません。