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話題の研究 謎解き解説

人工知能を用いて熱帯低気圧のタマゴを高精度に検出する

【目次】
熱帯低気圧のタマゴに注目した理由
人工知能とは? ディープラーニングとは?
「熱帯低気圧のタマゴ」と「タマゴではない」を識別する方法
熱帯低気圧のタマゴの高精度検出に成功!
人工知能によって0を1に、1を100に!

人工知能とは? ディープラーニングとは?

人工知能とは、どのようなものですか?

杉山:コンピュータ上で人間と同様の知能を実現することや、そのための技術を「人工知能」といい、1950年代から研究されています。特に学習に関する仕組みをコンピュータで実現しようとするのが「機械学習」で、データから判断基準やルールを学習し、新しいデータに対して予測や識別を行うことができます。

人間の脳の神経回路網をモデル化したニューラルネットワークは、1950年代後半から研究されてきました。ニューラルネットワークを多層にしたものがディープニューラルネットワークで、それによる機械学習を「ディープラーニング」と呼びます。その中でも特に、脳の視覚野の神経回路網をまねた「畳み込みニューラルネットワーク」の多層化技術が進歩したおかげで、近年では画像に対する認識精度が圧倒的に向上しました。


図2 人工知能、機械学習、ディープラーニングの関係

松岡:写真に写っている動物がネコかイヌかを識別する場合、従来の機械学習では、人がネコの特徴やイヌの特徴を定義しておく必要がありましたが、その作業には熟練の技を要し大変でした。ディープラーニングでは、特徴を自動的に抽出しながら学習します。人によって異なる経験則や思い込みによるものが取り除かれ、専門家でも認識していなかった特徴も使って識別するため、識別精度も大幅に向上しました。

ディープラーニングは数年前から急速に、音声認識や自動翻訳、画像認識、車両の障害物センサー、がんの検出など、さまざまな分野で使われるようになっています。皆さんも、生活の中でディープラーニングを気付かずに使っていると思いますよ。

気象学でもディープラーニングを用いた研究が行われていたのでしょうか。

松岡:いいえ。2年前、私たちがこの研究を始めたころ、情報科学的な手法を用いた気象学研究の国際ワークショップでも、ディープラーニングを使った研究はわずかしか発表されていませんでした。

杉山:ディープラーニングは帰納的なアプローチ、気象学は演繹的なアプローチである、という違いも大きな理由でしょう。ディープラーニングは、膨大な量のデータを総合的に分析して理論を導き、それに基づいて予測したり識別したりします。一方の気象学では、現象を支配している理論がすでに提唱されているので、理論を記述する物理方程式から成るモデルをつくりシミュレーションを行って結果を予想します。

松岡:気象学だけでなく、すでにモデルがある研究分野では、ディープラーニングは必要ないと思われていたのでしょう。でも、ディープラーニングを用いると、新しい展開があります。革新的な成果がいくつか出たのを見て、自分もやってみようという研究者が急激に増えています。