【目次】
▶ 熱帯低気圧のタマゴに注目した理由
▶ 人工知能とは? ディープラーニングとは?
▶ 「熱帯低気圧のタマゴ」と「タマゴではない」を識別する方法
▶ 熱帯低気圧のタマゴの高精度検出に成功!
▶ 人工知能によって0を1に、1を100に!
杉山:地震計に記録されたデータの解析に人工知能を用いることで、地震動と低周波微動のシグナルを自動的に高精度で識別する新手法を開発しました。ディープラーニングで学習しやすいように、地震計の波形データからランニングスペクトルという画像を作成することがポイントです。ランニングスペクトルの縦方向は地震波形に含まれる周波数成分を表しています。この周波数成分を精度よく認識できるディープラーニングモデルをつくり、識別させています。
図8 上段は南海トラフ付近に展開されている地震・津波観測監視システム(DONET)のKMD13観測点での地震波形。下段はランニングスペクトル。
杉山:カメラ画像から人工知能を用いて雲量や日射量など気象情報を抽出する技術の開発も進めています。防犯カメラネットワークなどを使って高密度で観測を行い、気象シミュレーションの初期値に利用したり、農業分野への活用も期待しています。
松岡:JAMSTECの中で人工知能を普及させようと、「AI勉強会」を開催しています。現在、地震の震源・規模の決定、魚群探知機の画像からの漁獲量推定、海洋掘削における掘削状態の把握や異常検知など、さまざまなテーマに人工知能を応用する研究が進行中です。こうした取り組みは、JAMSTECが持っているデータの価値を高めることにもなるでしょう。
松岡:人工知能を取り入れることで、0を1にできます。これまで人ができなかったことが実現できるようになる。一方で、1を100にすることもできます。できてはいるが精度が低かったり時間がかかったりしていたことが、高精度になったり短時間でできたりするようになる。それぞれ別の面白さがあります。
杉山:熱帯低気圧のタマゴの検出は、0を1にしました。新しいことの始まりであり、こういう研究は本当に面白いですね。
私は小学生のときに独学でプログラミングを始め、中高生になるとパソコンも自作していました。この記事を読んでいる人の中には、同じような人もいるでしょう。ディープラーニングのソースコードやドキュメントも簡単に入手可能で、さまざまなビッグデータも公開されています。ぜひ試してみませんか。
松岡:私が初めてパソコンに触れたのは5歳くらいのとき。親からBASICのプログラムの本も渡されました。私の場合は、それでコンピュータやプログラミングが嫌いになってしまい、いまでもすごく得意というほどではありません。そういう私でも新しい技術をすぐに研究に取り入れられるくらい、ディープラーニングの敷居は低くなっています。そして、多くのデータがインターネットで入手できるので、誰でもアイデア次第で革新的な成果が得られる。それが、人工知能の魅力ですね。
(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)