【目次】
▶ 隕石を手掛かりに、地球内部をさぐる
▶ リングウッダイトに埋もれていたイプシロン相
▶ 沈み込む海洋プレートの物質について新たな考え
▶ 一喜一憂せず、黙々と粛々と!
1879年にオーストラリアに落下したテンハム隕石から発見しました(写真5)。
まずはテンハム隕石を薄くして光学顕微鏡で観察しました(写真6)。すると、黒い脈がありました。これは、鉱物が高温高圧にさらされたときに溶けてできるものです。その中にはリングウッダイトが見つかりました。
そのリングウッダイトを切り出し、アルゴンイオンミリング装置を使って約100ナノメートルまで薄くしてから、超高空間分解能のTEMで観察しました(写真7、8、9)。
さらに、電子線回析像を観察しました(写真9)。
ものすごくかいつまんだ説明になりますが、星のような白い点(回折点)の大きさや並び方は結晶構造により変わります。そのパターンを調べれば、鉱物の種類や向きを明らかにすることができます。
比較的大きな星は、リングウッダイトからの回折点です。よく見ると、それらの間に弱々しい星も見えますね(写真9 赤矢印が指す点)。この鉱物がリングウッダイトだけならば、その弱々しい星は見えません。これが何なのか追求していくと、理論的に予測されていた、イプシロン相と呼ばれるタイプのカンラン石組成の物質の結晶構造(図4)のデータと合致することが判明したのです。
イプシロン相は1980年代にフランスの研究者であるポワリエ氏が理論的に予測していたものの、これまで天然の試料にも合成の試料にも見つかっていませんでした。
イプシロン相をTEMで400万倍に拡大した写真が写真10です。薄い板状で、リングウッダイトの結晶の中に埋もれています。
イプシロン相は、カンラン石の結晶構造が高圧下で変わっていく途中経過として、かげろうのように出現する儚いものだと考えられます。このイプシロン相ができた後、テンハム隕石が急速に冷えたために、生き残ったと考えられます。
ガッツポーズです。