【目次】
▶ 高知コア研究所は、コア試料の分析から研究、保管までを担う世界の中枢拠点
▶ キュレーション業務
▶ コア冷蔵保管庫
▶ 新コア冷蔵保管庫
▶ サンプルリクエスト
久光:サンプルリクエストは国内外から年間に70件ほど入ります。私たちはリクエスト内容を読んで、その研究にその試料が適しているのか、数は適切か、ちゃんと研究はできそうか、などを調べて評価します。時には試料数の削減や他の人との共有をお願いすることもあります。様々な調整がついたら、分析用試料を採取して国内外へ発送します。提供する分析用試料総数は、年間に数千〜数万個に達します。
久光:保管庫からコア試料を運び出し、サンプリング室で分析用試料を採取します(写真20)。採取後、コア試料に生じた空洞部分にプラスチックフォームを詰めます。これにより、人工的な隙間なのか自然のクラックなのか判別できますし、なおかつ周辺部が崩れて他の部分と混ざることを防止できます。試料にもよりますが、1~2㎝のずれが数百〜数千年の誤差になるので、堆積物や岩石片の移動や崩壊は防がなくてはなりません。
久光:採取した分析用試料は、プラスチックバッグに密封し、採取位置、クルーズ番号やホール番号、サイト番号などを記載したシールを貼ります(写真21)。
久光:コア試料の採取用具です。研究目的や試料の状態にあわせて使い分けます。例えば金属含有量分析用の試料は、セラミックやプラスチック製の道具を使って採集します。金属製の道具を使うと分析結果に影響を与えてしまいますから。
久光:柔らかいコア試料から、比較的大きなサイズの分析用試料を採取するために作成した特殊用具です。ここでは、「オカモト」という名前で呼ばれています。この名前は、私の先輩である岡本さんが作った道具がベースになっていることに由来します。オカモトを2つ使って試料を挟むようにして取り出します。
久光:科学の知識ももちろんですが、一番大切なのはコミュニケーション能力だと思います。キュレーション業務は教科書通りには進まず、調整が発生します。特に依頼者の希望に添えないときなどは、断るだけではなく「ここはこうしたらどうですか」などと提案しながら上手にコミュニケーションをとることが大切です。
久光:コア研が発足するときに、アメリカやドイツから「IODPのコア試料を保管して、キュレーションできる施設が、保管経験の少ない日本で本当にできるのか?」と心配されました。保管庫の仕様書や取り回し方法などを見せながら、一生懸命説明したことを覚えています。
2007年にA棟保管庫が完成すると、アメリカの複数拠点に保管されていた長さ83㎞分のコア試料の受け入れ(輸入)が始まりました。40フィートの冷蔵コンテナがどんどん日本に送られてきます。ところが、海底掘削コア試料は一般に知られていません。税関や港湾で「これは何ですか? 泥ですか、土壌ですか?」と検疫で引っかかるんです。私は高知の税関支署や、管轄する神戸税関に何度もコア試料や深海底掘削について説明しました。コア試料を知ってもらうために、神戸税関の所内報で海底掘削コア試料の特集を組んで頂いたこともあります。
久光:いざ海底掘削コア試料がコア研に届き始める(写真25~27)と、コア試料1本1本にラベルを貼って、保管庫にしまう作業の始まりです。2年間毎日、冷たい保管庫にこもりました。
写真26 2007年9月、A棟保管庫前のスペースを埋め尽くすように届いた大量の段ボール。この中に、コア試料が入っています。
久光:2008年秋にようやく国際的なサンプルリクエストの受付けが始まると、また壁です。特に輸出にあたっては、どの運送会社が対応してくれるのか、相手国の輸入規制、通関方法や税金、保険の種類などは? 国によって様々ですので、毎回ひたすら調べました。各国の税関と信頼関係を築いていくことが大切なステップでした。
スタッフと試行錯誤を繰り返し、色々な業務がようやく安定してきたのは2012年ごろからでしょうか。優秀なスタッフと一緒に仕事ができるのでありがたいです。