2020年5月4日の夜、千葉県北東部でマグニチュード5.6(気象庁:深さ48 km)の地震が発生しました。また、6日の未明にも、千葉県北西部でマグニチュード5.0(気象庁:深さ68 km)の地震が発生しました(図1)。これらの地震では、ともに関東の広い範囲で緊急地震速報が発表され、連夜のアラームに驚かれた方も多かったと思います。今回の2つの地震は、いずれも太平洋プレートの沈み込みによる海溝型地震で、フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界面で発生したと考えられます(図2)。今回の2つの地震の震源付近は、日頃から地震活動が活発な場所です1)。
一般的に、「海溝型地震」とは、地球の表面を覆うプレートが別のプレートの下に沈み込むときに、沈み込むプレートともう一方のプレートの境界で発生する地震のことを指します(2011年東北地方太平洋沖地震も超巨大な海溝型地震です)。房総半島沖から千葉県下にかけての領域は、東日本が位置する北米プレートの下に南からフィリピン海プレートが北西向きに沈み込み、さらにその下に東から太平洋プレートが西向きに沈み込む2)、二重沈み込み領域という複雑な地下構造をしています。このため、海溝型地震の震源域となるプレート境界面が2面存在し、さらにこのうち1つが今回の地震が起きた場所のように沈み込む二つのプレート同士の境界面となる、世界でも珍しい場所となっています(図2,図3)。
今回の地震から南方の房総沖に目を移してみると、1923年の大正関東地震(マグニチュード7.9)3)や1703年の元禄関東地震(マグニチュード8.2)4)は、もう1つのプレート境界面である、北米プレートとフィリピン海プレートとの境界で発生したと考えられています。これらの震源域は、神奈川県東部から千葉県南部に位置します(図1、図2)。また、これらの東側に位置する房総沖で2~7年の間隔で繰り返し発生することが報告されている「スロースリップ」と呼ばれるゆっくりとした滑り5)もまた、北米プレートとフィリピン海プレートとの間で発生しているものです。関東地震とスロースリップとは、発生域が重なっていません。さらに、最近の海底地震計による観測により、スロースリップが起きているところでは、微小な海溝型地震すらも起きていないことが分かりました6)。これは北米プレートとフィリピン海プレートの境界面に、地震を起こす場所とスロースリップを起こす場所とが棲み分けて分布していることを示しています。
ちなみに、フィリピン海プレートの沈み込む北限7)は、東北地方太平洋沖地震で大きく滑った断層面の南限8)とほぼ一致しています(図1)。東北地方太平洋沖地震は、北米プレートと太平洋プレートとの境界面で発生した地震ですが、茨城県南部より南側にはフィリピン海プレートが北米プレートと太平洋プレートの間に存在するため、断層滑りの房総沖への南進が止められた可能性があります(図2)。このように、太平洋プレートとフィリピン海プレートの2枚の海洋プレートの沈み込みは、関東地方の地震活動にさまざまな影響を及ぼしています。