2021年2月13日夜、福島県沖でマグニチュード7.3(気象庁暫定値:深さ55 km)の地震が発生しました。最大震度6強を観測し、けが人や建築物等の倒壊などといった被害が発生しています。気象庁は、今回の地震を2011年に発生した東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震と表記)の余震と考えられると発表しました1)。地震調査委員会による検討の結果、今回の地震は西北西―東南東に圧縮軸をもつ逆断層型で、太平洋プレート内部で発生した地震と結論づけられました2)。東北沖地震の余震として、海溝軸よりも陸側の太平洋プレート内部で発生したマグニチュード7以上の地震は、2011年4月7日に発生したマグニチュード7.2の宮城県沖の地震以来2個目です(図1a)。
これら2つのプレート内地震は、いずれも東北沖地震で大きく滑った場所3)よりも陸側に位置し、似たような断層モデルで説明されます。東北沖地震の大きな滑りは、滑り域より深い側には沈み込む方向に押す力、浅い側には沈み込む方向に引っ張る力を及ぼします(図1b)。これにより、今回の地震域はプレート内部が圧縮場となり、逆断層が発生しました。逆に、浅い側は引張場となり、海溝軸の沖側で正断層型の余震が発生しています(例えば、2011年3月11日15時25分の地震など)。東北沖地震から10年近くが経過してから今回のような地震が発生したことは、東北沖地震の周囲に与える影響の大きさを如実に表しています。
図1.(a)東北沖地震の余震域4)(緑枠)と、本震以降に領域内で発生したマグニチュード7以上の地震の震央分布。地震の深さをカラーで示し、今回の地震は赤丸で表示。背景のカラーは地震時の断層すべり量3)。黒線は海溝軸の位置5)。(b)今回の地震と東北沖地震のすべりとの関係の模式図。
図2は、東北沖地震以降に福島県沖で発生した地震のうち、実際に被害を及ぼした8個の地震の震央分布です6)。今回の地震(図2赤丸)は、この中ではマグニチュードで2番目に大きく、最大震度が最も大きな地震でした。一方、8回の地震の中で、東北沖地震と同じ断層面である、プレート境界で発生したと気象庁が発表した被害地震は、2019年8月4日に発生したマグニチュード6.4の地震7)の1つのみです(図2青丸)。また、津波を伴った地震は3回発生しています(図2黄色丸)。なお、ここで示した「被害地震」以外にも、地震は多数発生していることにご注意ください。
これらの被害地震について、宮城県沖・福島県沖における沈み込む太平洋プレートの地殻と最上部マントルの3次元地震波速度構造イメージングの結果8)を重ねて示します(図3)。今回の地震はプレート境界面9)から10kmほど深い場所、最上部マントル付近に位置し、沈み込むプレート内で発生したとする、地震調査委員会による判定結果と調和的です(図3赤丸)。プレート境界で発生したとされる2019年8月4日に発生したマグニチュード6.4の地震も、実際にプレート境界面近傍に位置することがわかります(図3青丸)。
今回の地震で話題になったことの一つとして、地震発生から間もないタイミングで「この地震により、日本の沿岸では若干の海面変動があるかもしれませんが、被害の心配はありません」という報道がされたことがあげられます。津波が発生する直接の原因は、海底面の変動です。海底面が変動することで、その上にある海水を上下させて、津波を発生させます。つまり、地震が発生しても、海底面に変動がなければ、津波は発生しません。また、地震が発生しなくても、海底の地滑りや、海底火山噴火などの要因で海底面が変動すれば、津波が発生します。今回の地震は、規模はマグニチュード7クラスとある程度大きかったものの、震源が深かったため、海底面までの距離が長く、海底面を大きく変動させることはありませんでした。一方、東北沖地震では、地震の断層面が浅いところまで広がり、海底面も大きく変動したため、大津波を伴いました。
ここで、改めて津波を伴った3個の被害地震(図2黄色丸)の位置を見てみると、今回の地震とほぼ同じ深さにもかかわらず津波を発生させている地震があります。これは、海域の地震の震源決定において、特に深さの推定精度に限界があることがその理由です。このことについて説明をしたいと思います。
3個の被害地震の震源位置は、気象庁により、地震波の初動と主要動の到達時刻を用いて推定されたものです。この方法は、迅速に情報発信できる長所がありますが、地震観測網から遠く離れた海域では震源位置の誤差が大きくなります。より正確な震源位置を把握するために、震央位置を気象庁の震源位置に固定して、地震波形全体を最もよく説明する地震の深さを推定した結果10, 11)と比較すると、津波を発生させた被害地震では、気象庁の震源深さが特に深く推定されていることがわかります(図4a)。津波が発生した事実を考慮すると、気象庁が上記の手法で決定した震源よりも実際の震源が浅かった可能性があります。東北沖地震以降のマグニチュード6以上の地震全てに対して比較をすると、特に日本海溝より海側で同様の傾向が見られます(図4b)。ちなみに今回の地震では、両者の差はほとんどなく、震源深さは信頼できるといえます。なお、気象庁では、このような深さ精度を考慮して、震源が深く求まるような海域では震源を浅く仮定して津波警報・注意報が発表されるようになっています12)。また、津波警報・注意報を発表した後も分析が続けられ、断層についての詳細が分かった時点で津波を予測し直し、警報・注意報の切り替え等が行われることになっています12)。
図4.気象庁による震源深さと、防災科学技術研究所F-netによる震源深さ10,11)との比較。(a)東北沖地震以降に福島県沖で発生し、被害を及ぼした地震6)に対する比較。地図中の数字は沿岸にて観測された津波高を示す。(b)東北沖地震以降に発生したマグニチュード6以上のすべての地震に対する比較。震央位置は防災科学技術研究所F-net11)から引用。
福島県沖では、1938年11月5日から30日にかけて、マグニチュード7以上の地震を5回含む群発地震活動があり、26日間の間に6回、津波を伴う地震を発生させたと考えられています13)。また、先述のように、東北沖地震以後も、津波を伴う被害地震は複数発生しています。幸い今回の地震では被害を伴う津波は発生しませんでした(注:石巻で20cmの津波が観測されるなど、全く津波がなかったわけではありません)が、海の下で地震が発生した場合には、常に津波被害が発生する可能性があることを念頭に置くことが大切です。現在、「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」14)など、さまざまな研究機関において、S-net15) やDONET16)といった海底ケーブル観測網のデータ利活用による、より信頼度の高い防災情報の発信を目指した研究開発が進められています。
謝辞:本コラムを執筆するにあたり、気象庁地震火山部鎌谷地震情報企画官および担当官の皆様に、内容を確認いただくとともに、気象庁における震源決定や津波予報手法について情報をいただきました。記して感謝いたします。