ラニーニャ現象が終息し、現在、熱帯太平洋はほぼ平年並みの状態が続いています。専門家の間では、今後、再度ラニーニャ現象が発生するのかどうかが注目されていますが、今のところ予測が不確実な状況です(例えば、コロンビア大学IRIのサイト)。今後の熱帯太平洋の動向も気になるところですが、これからの季節は、熱帯インド洋の動向にも注意する必要がありそうです。それは、熱帯インド洋で負のダイポールモード現象が発生する可能性が高まっているためです。私達のラボでは、昨年も、負のインド洋ダイポールモード現象の発生可能性についてコラムを投稿し(2020年5月18日JAMSTECコラム)、実際に予測が的中しました。予測通りに進行するならば、2年連続で負のダイポールモード現象が発生することになります。この現象に伴い、インドネシアなどでは大雨・洪水の被害が心配されます。
インド洋のダイポールモード現象は、熱帯インド洋で、海洋と大気が相互に作用しながら発達する現象です。これは、地球の気候システムに内在する変動現象で、人為起源の放射強制が主要因であると考えられる地球温暖化のような気候システムそのものの変化とは区別されます。数年に1度くらいの頻度で、夏から秋にかけて発生します。ダイポールモード現象には正と負の現象があり、特に負の現象が発生すると、熱帯インド洋の南東部で海面水温が平年より高く、西部で海面水温が低くなります。この水温変動によって、通常時でも東インド洋で活発な対流活動が、さらに活発となり、インドネシアなどでは大雨・洪水の被害が甚大化します。一方で、東アフリカでは干ばつが発生しやすくなります。2016年に負のダイポールモード現象が発生した際は、東アフリカの多くの地域で深刻な干ばつが発生し、食料や飲み水の安全が脅かされました。負の現象の日本への影響はまだよく分かっていません(正の現象発生時は、日本は猛暑になりやすい傾向があります)。
インド洋ダイポールモード現象は、最先端の科学技術でも、数ヶ月前から事前に予測することが難しいとされています。その中で、アプケーションラボのSINTEX-Fと呼ばれる予測シミュレーションは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使って、数ヶ月前からインド洋ダイポールモード現象の発生予測に成功した実績があります(例えば、2019年の正のダイポールモード現象の発生予測は的中しました。詳しくは、プレスリリース「2019年スーパーインド洋ダイポールモード現象の予測成功の鍵は熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象」)。
このシミュレーションを使って、今夏から秋にかけてのインド洋ダイポールモード現象の発生を、2021年6月1日時点で予測したのが、図1です。強さの不確実性は残るものの、この夏から秋にかけて負のインド洋ダイポールモード現象が発生する確率がかなり高いと予測しています。
また、世界の他の予測シミュレーションでも、同様に、負のインド洋ダイポールモード現象が発生する確率が高いと予測しているようです(豪州BoM、 北米マルチモデル予測、 APEC Climate Center など)。
今後も、熱帯インド洋の状況に注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されますが、SINTEX-Fウェブサイトや季節ウォッチは現在メインテナンス中のため、最新情報は、アプリケーションラボのTwitterなどをご参照ください。