2021年8月12日(日本時間の13日)、伊豆−小笠原弧南部の南硫黄島沖合約5kmに位置する福徳岡ノ場で、激しい噴火活動が始まりました。これまでの衛星データと現場観測に基づく報告では、大きな空中噴煙の生成、海水の変色、爆発的な発泡、および数日間にわたる繰り返しの噴火がありました。
さらに、福徳岡ノ場の噴火に関連する水中音波が、福徳岡ノ場から2,680km以上離れた国際監視システム(IMS) のハイドロフォン 観測点で記録されました。
IMSハイドロフォン観測点の記録は、氷山や海氷の漂流(1)、地震(2)、海底火山活動(3)など、さまざまな水中音響現象を遠くからほぼリアルタイムで監視することができます。また、地球規模の海底火山の噴火を研究する手段としての貴重な資産です。
深海サウンドチャネル(SOFARチャネル)に閉じ込められた低周波音波は、散逸せずに数百から数千キロメートル先まで伝搬します。したがって、地震や水中爆発などで生成された数百Hz未満の水中音波は、水中音波低速度層であるSOFARチャネルを音響導波路として効率よく伝わります(図1)。このような低周波信号の検出は、1996年の包括的核実験禁止条約の検証体制の一部として維持されているグローバルネットワーク国際監視システム(IMS)の重要な機能です。
IMSの目的は核実験爆発を陸上や大気中だけでなく、海中でも検出することです。したがって、IMSには地震動センサーと超低周音波センサーに加えて、5ヵ所の海洋島上地震計、6ヵ所の3つ組のハイドロフォン(ハイドロフォントリプレット)観測点からなる11ヵ所の水中音響観測点があります。ハイドロフォントリプレット観測点は海洋島の沖合のSOFARチャネルの深さに海底から係留する形で設置されています。
今回、福徳岡ノ場での最近の噴火の初期段階を調査するために、西太平洋のウェーク島にあるIMSステーションH11での波形データを解析しました(図2)。
IMSハイドロフォントリプレットは通常、ほぼ水平に広がって展開されているため、ハイドロフォン間の信号到達時間の差を利用して、到来方向を求めることができます。図3Cは、2021年8月12日の21:00 UTCの直後に、H11Sハイドロフォントリプレットによって記録された音響の到来方向が288°に安定し始めたことを示しています。これは、福徳岡ノ場方向に音源が存在することを表しています。
同様な記録が翌13日に数千回観測され、音響的に検出可能な活動が少なくとも8月15日の正午まで継続的に発生し、その後は1日あたり12回未満に低下していることが分かりました。
図3A には8月12日の21:25UTC頃に観測された広帯域インパルス信号が明らかに示されています。福徳岡ノ場からウェイクアイランド観測点までの音響伝搬時間は、距離2,680 kmを速度1.48km / sで伝搬すると約30分です。これは静止衛星ひまわり8号が観測した明確な最初の噴煙の数分前にインパルスが発生したに違いないことを示しています(4)。したがって、この観測結果は、噴火開始時のクライマックスイベントに関連していると考えられます。
今回の解析は、噴火のダイナミクスのより完全な全体像を導き出すために、分野を超えたデータの組み合わせが有益であることを示しています。最近の観測は、福徳岡ノ場での火山活動が8月15日以降に復活したことを示しているため、この研究を火山噴火初期段階調査のみならず、その後の期間に拡張することも重要と考えられます。
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研究論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ast/43/2/43_E2165/_article/-char/ja
参考文献
Long-range underwater acoustic observations of the recent 2021 eruption at Fukutoku-Okanoba