国立研究開発法人海洋研究開発機構 東日本海洋生態系変動解析グループ 東北マリンサイエンス拠点形成事業 ‐海洋生態系調査研究‐

メンバーに聞いてみよう

 [第5回]研究者と一般、国内と国外の隔てなく、有用なデータ公開で繋いでいきたい 
              園田 朗 データマネージメントユニット ユニットリーダー

※ユニット名・役職は取材当時のものです。
プロフィール

園田 朗(そのだ あきら):

東海大学大学院 海洋学研究科 海洋科学専攻を修了。修士(理学)。海洋研究開発機構 地球情報基盤センター 企画調整室長。少年時代にJ.クストーの映画「沈黙の世界」、T.ヘイエルダールの冒険航海記「コンティキ号漂流記」などに触れ、海洋学者を志す。TEAMSでは「データから情報へ 科学情報を社会へ」をモットーに、データ共有・公開機能の整備・運用を担当。

データは共有と利用がされてこそ、価値がある

JAMSTECをはじめとする複数の研究機関に所属する研究者で組織されるTEAMS。このプロジェクトで得られた膨大なデータの収集・管理を一手に引き受けているのが「データマネージメントユニット」。

チームを率いるのは「データから情報へ 科学情報を社会へ」をモットーにする園田ユニットリーダー。データ公開システムを通じて、研究者間はもちろん、一般にも調査結果を公開している。

「データ管理の重要性を学んだのは、海外チームと合同の海洋調査でした。米国の研究者は、海洋調査で長い期間乗船しても時間のかかる化学分析を大量にこなし、しかも頻繁に論文を書く。これを不思議に思っていたのですが、日本人の研究者が『根性』で徹夜しながら作業をするなか、彼らはシステマティックな分業体制を取って、どんどん観測や船上分析をこなしていたんです」

このままでは日本は太刀打ちできない、と痛感した園田ユニットリーダーは、研究者の相互の観測支援体制の重要性を周囲に熱弁、いつしかJAMSTEC内の情報共有システムの構築をまかされるようになる。

園田 朗

「そんなころ遭遇したのが、北海道南西沖地震や三陸はるか沖地震でした。大規模に海底が撹乱された様子や、延々と続く地割れの映像を見て、観測データだけではなく映像データも広く公開できないものか、と考えるようになりました。そこへ、タイミングよく深海調査による映像データのアーカイブと公開のためのシステム構築の構想が立ちあがり、これを担当することになったんです」

園田 朗

園田ユニットリーダーが携わることになったのは、沖縄で国際海洋環境情報センター(ゴーダック:GODAC)を作ること。ここで世界にも類を見ない深海調査の映像データベースの構築・運用を担当し、これ以来、園田ユニットリーダーはJAMSTECの海洋調査・観測により得られた情報を公開するためのデータベースシステムの整備・公開を担当することになる。

「国際海洋環境情報センターのほか、いくつかの情報公開システムを構築したあとに起きたのが東北太平洋沖地震でした。国内外からの迅速な調査研究結果の公開・提供を強く求められ、TEAMSはプロジェクト発足当初よりデータ共有・公開機能の整備を始めました」

JAMSTEC 横浜研究所 空から見た横浜研究所

一般にデータベースシステムは、扱うデータの性質や周辺情報、利用目的などの情報を入手・整理した上で開発に着手するところ、その開発を急がれたことから、扱う観測データがどういうものになるか分からない中で開発をスタートさせることになったという。

「お互いに勝手も分からない中で研究者とやり取りしながら、データセット単位で管理・提供が可能な情報カタログ形式のシステムから開発に着手することになりました。試行錯誤の末、できあがったのが『リアス』です」

東北の海のデータの収蔵庫「リアス」

手探りの状態から、TEAMSは集めた調査情報や観測データを集積し続け、「TEAMSデータ案内所リアス」として、インターネット上に公開を開始。このデータ公開システムを通じて、研究の成果を世界から自由に閲覧することができるようになった。

TEAMSデータ案内所リアス

「『リアス』は国内外においてTEAMSの調査情報を共有することができるデータの総合カタログのようなものです。しかし、観測データそのものがあるだけでは、誰でも使えるデータとはなりません。利用者が自らの利用目的にあった情報を数あるデータの中から探し出せるようにするには、検索機能を構築する必要があります。また、個々の観測データがいつ、どこで、誰が、どんな機器で、どんな目的のために取ったものなのかといった情報も重要です。これらをデータセットとして管理し、検索できるようにしています」

目下の課題は、データの大容量化への対応と、利用しやすいデータを用意すること、と園田ユニットリーダー。

園田 朗

「最近は、コンピュータの性能や映像技術の急速な発展により、大容量のデータが簡単に得られるようになってきました。しかし、それを提供する際にそのままインターネット上で公開すればよい、というわけではありません。データの利用目的やデータの種類・形式・容量などに応じて、その提供の方法や仕組みを作っていく必要があります」

また、TEAMSの研究者による研究成果を見やすい形で提供するには、数値データ羅列ではなくて可視化した画像情報に加工したり、解説情報を付けて解りやすくするなどの工夫も必要になってくる。

「リアスでは、地元の漁業復興や水産資源管理に繋がる基礎データの公開・提供も行なっています。私たちのユニットでは、被災地の地元自治体や漁業者に対して、震災後の生態系や環境の変動についての科学的情報をわかりやすい形で提供すると共に、効果的・効率的な漁業のあり方の基礎資料となることも目指しています。なかには、ある場所での水温・塩分などのデータを、自分の経験と勘に組み合わせて活かしている漁師さんもいらっしゃるようです。一般の方にもわかりやすいデータ提供の方法も考え続けています」

東北の海のデータを共有の財産に

ここ数年、科学データのオープン化は世界的な流れとなっており、国によっては義務化されつつある、と園田ユニットリーダー。

「こうした流れの中で、我が国における先進的なプロジェクトとして、TEAMSが積極的な科学データの発信・共有を行っていくことは、科学と社会の関係を深めるきっかけにもなり得るのではないでしょうか。情報が共有されることで、新しい視点が加わることや、TEAMS以外の研究に貢献することもあるでしょう。また、TEAMSという長期プロジェクトによるモニタリング調査データが集約され、研究成果と一緒に保存されることで、今後似たような災害が起こる可能性がある他地域での復興にも貢献することができるかもしれません」

観測データの管理・公開は、担当者が頑張れば目標を達成できるというものではなく、現場で調査・観測を行なう研究者の理解と協力があってこそ。この協働体制の構築もTEAMSの使命のひとつだという。

「これまで日本の研究者は観測データの管理を第三者に委ねて、その公開・提供を積極的に進めるという経験が少なかった。そのため参加研究機関の研究者の理解と協力を得られるかどうか、正直なところ非常に不安がありました。しかし、未曾有の大震災からの復興に貢献するプロジェクトであるTEAMSに参加した研究者の意識は高く、想像以上に早く理解と協力を得てここまで進んでこれたことには感慨深いものがありますね」

園田 朗

情報を公開することにより、TEAMSの内外でデータ、アイデアの交流が起き、関連分野の研究者の利用はもちろんのこと、社会科学分野などの異分野の研究者等に「リアス」が利用されるようになりつつある。それと並行して、一般向けに噛み砕いた情報の発信も進められている。

「いかに社会で利用できるような研究成果を集めて保存できるか、いかに科学(研究成果)情報を地元向けに発信できるか、また、それらをいかに解りやすい形で社会に届けられるかをテーマに、私たちは地道に情報の整理と発信をしています。『リアス』に蓄積された客観的な基礎データが、地元行政や関係機関が適正な漁業管理を検討するための素材としても役に立てば嬉しいですね。また、現在、調査活動で得られた映像や画像データなどを簡単に閲覧してもらえるようにデータを準備中です。日ごろ目にする機会が少ない海底の様子や深海の生き物の様子などをご覧いただけるようになります。ご期待ください!」

園田 朗

※園田ユニットリーダーへのインタビュー記事は、その他に
「海と地球の情報誌 Blue Earth」(2016年4月発行)
第28巻第2号(通巻142号)にも掲載されました。
詳しくは こちらをご覧ください(PDFファイル)

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