国立研究開発法人海洋研究開発機構 東日本海洋生態系変動解析プロジェクトチーム 東北マリンサイエンス拠点形成事業 ‐海洋生態系調査研究‐

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 [第7回]地震が変えた東北沖合の海底を精緻に可視化する 
              笠谷 貴史 生態系変動解析ユニット 主任技術研究員

※ユニット名・役職は取材当時のものです。
プロフィール

笠谷 貴史(かさや たかふみ):

京都大学理学研究科地球惑星科学専攻を修了。博士(理学)。海洋研究開発機構 地震津波海域観測研究開発センター 主任技術研究員。2002年より海洋科学技術センター(現 海洋研究開発機構)深海研究部に特別研究員として入所。地球内部変動研究センター(IFREE)研究員、技術研究副主幹を経て、2014年より現職。専門は地球電磁気学、物理探査学。

大学院までは陸上の活断層や火山における地下構造を研究。博士論文は御嶽山南東麓の長野県西部地震震源域での比抵抗構造。JAMSTECへ勤務してから海洋における調査・研究を始め、主として南海トラフなどの地震発生帯の地下構造に関する研究を行う。専門である電磁気観測を行う機材がほとんど無い状態から、観測に必要な観測機器の開発を開始し、国内外において観測を実施できる体制を整えた。電磁気探査が主となる熱水鉱床に関する探査技術開発も行っている。2006年にAUV「うらしま」と関わってから音響機器を用いた地形・地質構造の研究へとフィールドを広げ、気がついたら固体地球関係の観測何でも屋さんとなっていた。特に2011年の地震以降、浅海から海溝軸に至る海底地形データ取得とその解析業務に従事している。

生物や海水中の物質の研究者が多いTEAMSにあって、数少ない地質のスペシャリストが笠谷研究員。海底地形や海底面・海底下の地質情報を可視化することで、地震後の海底環境を明らかにしようとしている。

笠谷 貴史

「地震は津波だけでなく浅海から深海までその大きなエネルギーで様々な変化・変動をもたらしました。陸と異なり水があるため、地震後の“今”を目で直接捉える事は困難です。海底の様子を捉えるため、音波を使った観測を通して、地震後の今を少しでも明らかにしたいと思っています」

音波で捉える海底地形や地質状況は、すべての観測・研究、そして今後のハビタットマッピングなどの解析の基礎情報となる。また、沖合の岩礁や以前に沈められた魚礁などの位置も明らかに出来るので、直接的な漁業活動の応援にもなる。

サイドスキャンソナーで撮影された海底の露岩(左)と木(右)

「地震以前、水深100mから1000m程度の海域の詳細な海底地形データは十分ではありませんでした。そのデータが着々と蓄積されつつあります。2012年の3月上旬に行なわれた『MR12-E02航海』 では、地形に加え海底観察と堆積物の採取が行われました。現在、そのデータを使い、地震後「1年」の海底環境がどうだったかについて論文にまとめています。沖合底引き漁がある海域は、地震後の事業で掃海作業がかなり行われているので、瓦礫と思われる物体は少なくなっていますが、まれに大きな木や人工物と思われる物体をソナーで捉える事があります。また、沖合の水深200mより深いところには、海底谷が多く存在しています。特に岩手県沖合では大きく深い海底谷がたくさんありますが、この海底谷に多くの地震に伴う瓦礫も含む多くのゴミが存在することなどが分かりました」

笠谷 貴史

東北沖合の基礎的なデータはある程度の蓄積ができた、と笠谷研究員。

「浅海部と深海部、双方で地震による大きな変動が広範囲で記録されています。それらがどの様に繋がっているのか、東北沖全体で何が起こったのかを常に意識しながら研究を進めたいですね。今後はこのデータを基にして、海域ごとの生物の資源状況を示すハビタットマッピングを進めていきます。その過程で、調査が十分なところ、不十分なところを明確にしたいと思います。浅海でのデータ取得はたいへん時間がかかるため、いくつかの湾とその沖合にターゲットを絞りつつあります。ターゲットとなる地域において、ハビタットマッピングに対して何を提供できるのか、地元の人たちにとって何が有益な情報となるかについて頭に置いて考えていきたいと思います」

笠谷 貴史

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