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トピックス:コラム

【コラム】2018年はなぜ台風活動が活発だったのか?
~亜熱帯中部太平洋からカリフォルニア沖まで達する暖かい海面水温の役割

2019年11月5日
地球環境部門
環境変動予測研究センター
雲解像モデル開発応用グループ
中野満寿男 技術研究員

はじめに

まずは相次ぐ台風により被害にあわれた皆様に対して心よりお見舞い申し上げるとともに、犠牲になられた方々、ご遺族の皆様に対して深くお悔やみを申し上げます。被災地の一日も早い復興を願っております。
本コラムでは、米国地球物理学連合の学術雑誌「Geophysical Research Letters」に掲載されました2018年の台風活動の研究成果についてご紹介いたします。

2018年は台風が多く日本に接近しました。特に台風21号は関西地方を中心に大きな被害をもたらしました。北西太平洋だけでなく北太平洋全域で熱帯低気圧活動が活発でした。ではなぜ2018年は熱帯低気圧活動が活発だったのでしょうか?この問いに答えることで台風の季節予測の実現へと一歩近づくことができます。
我々は米国大気海洋庁の地球流体力学研究所(GFDL)、気象庁気象研究所などの研究者と国際共同研究チームを結成し、この問いに答える研究を行いました。その結果、亜熱帯中部太平洋からカリフォルニア沖へと達する暖かい海面水温の影響が大きかったことがわかりました。

大規模な海面水温変動と台風活動

台風活動はエルニーニョ現象といった熱帯の大規模な海面水温変動の影響を大きく受けることが知られています。例えば、南米ペルー沖の海面水温が高くなるエルニーニョ現象が発生すると、台風の発生位置は普段よりも南東にシフトし、強い台風の発生が増加する傾向があります。逆に、フィリピン付近で海面水温が高くなるラニーニャ現象が発生すると、台風の発生位置は普段よりも北西にシフトし、短寿命の台風が発生多い傾向があります。また正のインド洋ダイポール現象が発生すると、台風シーズンの開始が遅れる傾向があります(【コラム】2016年における台風発生時期の遅れ)。

2018年の海面水温

図1は2018年7-11月の海面水温の気候値からの差(偏差)です。観測ではエルニーニョもどき現象※1)にともなう赤道太平洋中部の海面水温上昇に加えて、亜熱帯太平洋中部からカリフォルニア沖にかけても平年より高くなっていました。また日本近海からアラスカ湾にかけてと北大西洋でも高温になっていました。GFDLの大気海洋結合モデルFLORはこれらの高温を半年前から予測していただけでなく、北太平洋での活発な熱帯低気圧活動も予測していました。そこで、FLORとともに世界的に熱帯低気圧研究をリードしている全球非静力学大気モデルNICAMと気象庁気象研究所の全球大気気候モデルMRI-AGCMの3つのモデルを用いて、どこの海面水温偏差が活発な熱帯低気圧活動に寄与していたかを調べました。

図1 観測とFLORでシミュレートされた2018年7-11月の海面水温偏差。斜線部は偏差が統計的に有意でない領域
図1
観測とFLORでシミュレートされた2018年7-11月の海面水温偏差。斜線部は偏差が統計的に有意でない領域。

どの海面水温上昇が北太平洋の台風活動に影響していたか?

数値実験では下部条件として与える海面水温を観測に近い状態から少し変えることで、熱帯低気圧の活動がどの程度変わるかを調べ、その海面水温が熱帯低気圧の活動に重要であったのかどうかを判断しました。図2は、数値実験で与えた海面水温偏差の分布(左列)と、その結果モデルでシミュレートされた熱帯低気圧存在日数の偏差(全海域で海面水温偏差を0にした実験との差、右列)です。何も変えず、すべての偏差を与えた実験(図2a)では、観測同様に太平洋中部から北西太平洋にかけて熱帯低気圧活動が活発だったことが再現されました。次に、亜熱帯中部太平洋からカリフォルニア沖に伸びる高温偏差で構成される亜熱帯の海面水温偏差を除いた実験(図2b)では、この活発域がほぼなくなり、若干負の領域が広がりました。このことは、亜熱帯中部太平洋からカリフォルニア沖に伸びる高温偏差が台風活動に非常に大きな影響を与えていたことを示しています。更に、エルニーニョもどきにともなう高温偏差で構成される熱帯の海面水温偏差を除いた実験(図2c)では南シナ海からフィリピンの西にかけて負偏差が強まっており、この海域での台風活動に影響していたことを示しています。
逆に亜熱帯の海面水温偏差のみを残した実験(図2d)では、すべての海面水温偏差を与えた実験とほぼ同様の熱帯低気圧活動が再現されました。また熱帯の海面水温偏差のみを与えた実験(図2e)では北西太平洋での熱帯低気圧活動がやや活発になり、北東太平洋での熱帯低気圧活動が不活発になりました。北大西洋の海面水温偏差を除いた実験(図2f)はすべての海面水温偏差がある実験とほぼ同じで、影響がほとんどないことがわかりました。以上の結果から、北西太平洋の台風活動については亜熱帯中部太平洋からカリフォルニア沖に伸びる高温偏差の寄与が非常に大きく、次いで熱帯太平洋の海面水温の寄与が大きかったことがわかりました。
北西太平洋の台風シーズンには、モンスーントラフとよばれる、フィリピン付近から東南東に伸びる低圧部がみられます。モンスーントラフの南側ではモンスーンの西風、北側で貿易風の東風が吹いており、この風向きの差により低気圧性の渦を作りやすいため、台風のゆりかごとして働きます。したがってモンスーントラフの強さや位置により台風活動が大きく左右されます(2019年7月3日プレスリリースの補足図参照)。そこで、モンスーントラフを解析したところ、熱帯中部太平洋からカリフォルニア沖に伸びる高温偏差はモンスーントラフの位置を東へと移動させただけでなく、東へ大きく伸ばしていたことがわかりました。熱帯の高温偏差は、モンスーントラフの位置は変化させませんでしたが、強さを強化したことがわかりました。このようなモンスーントラフの変化により台風活動が活発になったといえます。

図2 数値実験で与えた海面水温偏差(左)と熱帯低気圧存在日数の偏差(右)。斜線部は偏差が統計的に有意でない領域
図2
数値実験で与えた海面水温偏差(左)と熱帯低気圧存在日数の偏差(右)。斜線部は偏差が統計的に有意でない領域。

今後

季節予測の高精度化のためにはアンサンブルシミュレーション(※2)が必要です。今回の研究のように様々なモデルを用いることも重要です。しかしこのような予測のためには莫大な計算機資源が必要です。先日スーパーコンピュータ「京」が役目を終えたことがニュースになりましたが、2021年頃にはスーパーコンピュータ「富岳」の運用が開始される予定です。コンピュータの速度が速くなれば、より高い解像度でのシミュレーションが可能となるだけではなく、本研究のように様々な実験設定やモデルを用いて多くのシミュレーションを行うことにより、大気海洋現象の理解が革新的に進むことが期待されます。我々の研究チームでは「地球シミュレータ」などを活用しつつ、「富岳」にむけたモデル開発も着実に進めていきます。

謝辞

NICAMによる予測計算はポスト「京」(スーパーコンピュータ「富岳」)重点課題4『観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化』のもと、スーパーコンピュータ「京」(課題番号hp180182)とJAMSTECのスーパーコンピュータ「DAシステム」を用いました。また気象研究所全球大気モデルによる予測にはJAMSTECのスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を用いました。

論文タイトル:On the Mechanisms of the Active 2018 Tropical Cyclone Season in the North Pacific
著者:Y. Qian1,2,3, 村上裕之2,4,5, 中野満寿男6, P.-C. Hsu1, T. L. Delworth2,3 , S. B.
Kapnick2, V. Rammaswamy2, 望月崇6,7, 森岡優志6, 土井威志6, 片岡崇人6, 那須野智江6, 吉田康平5
1. 南京大学
2. 米国大気海洋庁(NOAA)地球流体力学研究所(GFDL)
3. プリンストン大学
4. 米国大気研究大学連合(UCAR)
5. 気象庁気象研究所
6. 国立研究開発法人海洋研究開発機構
7. 国立大学法人九州大学
論文へのリンク https://doi.org/10.1029/2019GL084566

※1. エルニーニョもどき現象
エルニーニョもどき現象は、熱帯太平洋で見られる気候変動現象で、エルニーニョ現象とは異なる現象です。エルニーニョ現象は、熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より温かくなりますが、エルニーニョもどき現象は、熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より冷たく、中央部で海面水温が温かくなります(詳細はhttp://www.jamstec.go.jp/aplinfo/climate/?page_id=115を参照)。2018年度のエルニーニョもどき現象の発生予測に興味がある方は、コラム(2018年6月)もご覧ください。

※2. アンサンブルシミュレーション
シミュレーションに用いる数値モデルの不完全さや、初期値に含まれる誤差によりシミュレーション結果が現実と大きくかけ離れてしまうことがあります。このため、初期値やモデルにわずかな違いを与えたシミュレーションを多数実行することで、このようなシミュレーションの不確実性を考慮し、できるだけ確からしいシミュレーション結果を得る手法をアンサンブルシミュレーションといいます。本研究では複数のモデルで、複数の初期値を用いてアンサンブルシミュレーションを行いました。この手法は季節予測だけでなく、天気予報や台風の進路予測等でも用いられています。アンサンブルシミュレーションの数を増やした季節予測実験に興味がある方は、プレスリリース「極端に強いエルニーニョ現象やインド洋ダイポールモード現象の発生を高精度で予測可能に!」や「スーパーエルニーニョに対する強い台風の数の変動 ―台風の季節予測に向けた大気の内部変動の予測の重要性―」もご覧ください。