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05 Nov. 2011: Mirai
11月5日(土)[定点6日目]「トランシーバ」
ちょっと文章書きを休んでしまい失礼しました。観測内容はあらかたLeg-1の筆者が紹介しているので、今後はコマゴマとした話になるかもしれませんが、よろしければお付き合いを。
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さて本日は船上観測での必須のアイテムについて。それは「トランシーバ」。
先の記事で「観測機器と船の一体運用が大事」と紹介したが、実際の観測作業では、それぞれの部署が作業のどんな段階にいて、どんなアクションをとっている/取ろうとしているのか、を相互に知っていることが大事になる。一番簡単な例がラジオゾンデ(風船にセンサを付けて飛ばす大気観測)。これを何も考えずに空に飛ばせば、風に流されて障害物(船のマスト)に絡まるかもしれない。これを防ぐ為には、放球前に船の向きを制御してやり、ゾンデが障害物のない方向に飛んでいく体勢を作る必要がある。ゾンデを放球するタイミングと、船の向きを整えるタイミングを一致させる為の情報交換が必要であり、その為のツールが、トランシーバだ。
水中にセンサを垂らしてその鉛直分布を測る観測(CTD(*1)、MSP(*2)等)だと、それに係わる場所は主に3ヶ所になる。1つめは、実際のセンサや、センサを水中に垂らすケーブル、あるいはそのケーブルを制御するクレーンやウィンチ、等を直接コントロールする上甲板(写真右下)。2つ目は、センサからリアルタイムで上がってきたデータを見てどんな場所(主に深さ)にセンサがいるのかを知り、ウィンチ等の動作を指示するオペレータ(写真右上)。そして3つめは、センサやケーブルが船体から着かず離れずの適切な位置にあるように船の動きを制御する操舵室(写真左)。この3ヶ所は船上では全く別々の場所だが、常にトランシーバで連絡を取り合い、適切なタイミングでそれぞれが適切な制御をする。それによって、安全に、確実に、そして精度の高いデータを得ることが可能になる。
確実を期する為に、そのやりとりにはある程度決まった手順や言い回しがある。また、短時間で情報のやりとりをするために、交わす言葉はシンプルで画一的な方が良い。しかし、いやだからこそ、個々人の言い方がしっかりとしたスパイスとなる。新人さんの緊張した声は新鮮だし、ベテランの落ち着いた声は安心感を与える。あの人らしいなぁ、という声があるかと思えば、えっ、あの人がこんな言い方を?という声もある。最小限の言葉が産む無限のバリエーションがそこにはある。
この原稿を書いている現在も、机の上のトランシーバは、CTD観測の為の声のやりとりを伝えている。それは、この船上でしか聴くことのできない、たった数十人の為のラジオ生中継として、少なくとも私の、そして恐らく多くの人の、船上生活の密かな楽しみになっている。