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新鋭海外研究船 ”RRS Sir David Attenborough” 訪船

2024219

北極域研究船推進部 建造チーム

 読者の皆様、ご無沙汰しておりました。北極域研究船建造チームです。 

 本船の建造状況としまして、昨年6月末に「北極域研究船の建造状況 Ⅱ」を紹介していましたが、実はブログ公開と前後し、英国の研究機関British Antarctic Survey(以下BAS)により運用されている新鋭船 “RRS Sir David Attenborough(以下SDA)”に訪船してきました。北極域研究船の機能詳細や就航後の運用に参考にするため情報交換を行い大変参考になりましたので、今回は当時のSDA訪船についてお伝えしようと思います! 

 訪問の詳細をお伝えするに入る前に、SDAについての最新のトピックをお伝えしようと思います。この記事をご覧いただいている皆様は環境問題にも興味があるかと思いますが、昨年末に世界最大の氷山「A23a」が鎮座していた南極の海底から外れ沖に向かって動き始めたというニュースが流れたことをおぼえているでしょうか?実はその氷河が動いているBBCのニュース映像はSDAから撮影しているものもあるという事に気づきまして驚いた次第です。
 北極域研究船就航の暁にはSDAと同じような科学的成果を上げられるように、北極域研究船の完成に向けて決意を新たにしたところです。(ちなみにSADの正式名称についているRRSはRoyal Research Shipの略です。かっこいいですね。また「David Attenborough」はイギリスの著名な学者のお名前になります。)

 このSDAですが、私たちが訪船のお約束をしていただいたタイミングでは、英国東部のHarwichという町に停泊しているという事で、横浜より一路、訪問させていただきました。当然飛行便でロンドン経由のルートになりましたが、搭乗した航空機のルートは北極経由でした。途中で現在位置を確認したところ、「北緯81.58度」となっており、この緯度はこれまでJAMSTECの研究船では到達したことがありませんが、北極域研究船ではいずれ航海することも計画してます。窓から見えたような氷海の中を突き進む本船をイメージしながら、その後に控えているSDA訪問時の確認事項の再確認をおこないました。

写真1 機内フライトインフォメーション

 なお正確な位置はグリーンランド北端付近で夏でも氷が非常に厚い地域なので、現在の地球環境が維持される限り、北極域研究船では訪れることが難しい場所になります。

写真2 窓の外の様子

その後無事ロンドン経由でHarwichにたどり着きましたが、停泊している港は駅から直結という事で、ターミナルを降りたらすぐにSDAがすぐそこに!

写真3 最寄り駅 Harwich International Station 降りたのはJAMSTECだけという事態。。。
写真4 駅を出たらすぐにSDAです!(※国際港なので入場許可は必要です)
写真5 乗船の様子

 この後すぐに乗船させていただきましたが、この時はちょうど研究航海への出航前準備を行っており、2日後には出航するという忙しいスケジュールの中で、暖かく迎え入れてくださいました!北極域研究船完工のおりには是非我々も恩返しをしたいと思います。

写真6 ラウンジフローリングにBASのロゴが!

乗船後はラウンジで注意事項などのブリーフィング実施後に見学を開始しました。

 まずはブリッジ(船橋)へ案内いただきました。SDAのブリッジは船の前方についており、この点は北極域研究船と同じですが、目の前にヘリデッキがあり(北極域研究船は船尾側)ここが一番の相違点です。ブリッジ内では航海機器配置の詳細やマンニング(乗組員の配乗形態)、観測時の監視などについて確認しました。

写真7 ブリッジ操船区画

 ブリッジ内の細かい設備を見て回っていると、おや?床に穴が。。。と思いきや、某タワーやツリーなどにあるような足元から下方を見れるようなガラス窓がありました。はじめての紹介になりますが、実は北極域研究船でも計画されており、ブリッジから外に出ずとも海氷や海面の様子の目視観察が可能になるので大活躍予定です。

写真8 床にガラス!北極域研究船にもつきます!
写真9 ブリッジの床ガラスを外から見るとこんな感じです。

その後ヘリコプター格納庫内のご説明をいただき、ヘリコプターデッキに移動しました。
この付近でもヘリコプター以外の観測活動を実施する一方で、ヘリの運航も行うため配置には非常に気を使っているとのことです。そのため「船首マスト」は可動式となっており、船のさらに前方へ倒すことができる構造とのことでした。
またヘリコプターを格納庫から搬出入するハッチは船の船首側隔壁についている配置となっており、航海中は風を受ける場所になっているため強固な構造となっていました。

写真10 ブリッジからヘリデッキを望む。一番奥にある高い塔が「船首マスト」です。
写真11 ヘリ出入り用
写真12 ヘリデッキ上で記念撮影。大変お世話になりました!

ヘリについてのお話を伺っていたところちょうどお昼になりましたので、SDAの食堂で昼食をいただきました。食堂の窓が大きく非常に開放的な空間となっておりました。非常においしい食事で、船上の研究者の方も楽しみにしているとのことでした。

写真13 開放的な印象の食堂です。
写真14 バイキング+メインのほしいものを注文する形式でした。

昼食後はいよいよ研究船の心臓部であるウィンチ室の見学を行いました。
「ウィンチってあれでしょ?あの天井にぶら下がってたり、オフロード車のフロントについてるやつ。そんなの船にいっぱいついてんの?」と思ったソコのあなた!それは大きな間違いです。
(私も昔はそう思ってたなんて言えない。。。)

口で言うよりも写真を見て頂いた方が分かりやすいと思います。船室内にところ狭しと巨大なウィンチやシーブ類が設置してあり、いろいろな種類のケーブルを用いて、CTDやピストンコアなど専門的な観測活動がスムースに実施できるようになっています。写真だけだとわかり難いのでBASが公式に運営している「BAS Virtual SDA」というサイトでもご覧になってください。スゴイですよ!

写真15 複雑なウィンチ室。ケーブルがどう飛び交うのかすぐにはわかりません。

そしてこのウィンチ類や、ウィンチから繰り出されるケーブルを使用して観測器具を吊り上げるAフレームクレーンを操作するウィンチ操作室に移動しました。この巨大な門型のクレーンにケーブルが通ることで、いろいろな観測器具を吊り水中に投下することができます。

写真16 ウィンチ操作室。ここからウィンチやクレーンを操作できます。
写真17 ウィンチ操作室より船尾側の作業甲板を見渡す。ひときわ高い門型のクレーンが「Aフレーム」です。

 

そして、このAフレームを使って甲板にあげた観測機器やサンプルはそのまま屋外で作業するにもいきませんので、同じ甲板に「サイエンスハンガー」という格納庫があり、その中に引き込んで作業をしたりするそうです。
その「サイエンスハンガー」に移動しましたが、先ほどのウィンチルームと同じような部屋がハンガーを見渡す高い位置にありました。ここから「Aフレーム」とは別の「LARS」という伸縮式のクレーンを用いた作業や、ムーンプールでの作業ができるようになっているそうです。
なお後部の作業甲板は出航前の作業中という事で立入禁止、また、残念ながらムーンプールも閉まっていて見学できませんでした。いつかは見てみたいですね。

写真18(左)操作室船首側の船側にも別のAフレームがありました。 写真19 (右)「サイエンスハンガー」内のウィンチ操作用部屋

写真20 船側部の甲板。ちょうど船側Aフレームの直下です。

また「サイエンスハンガー」の隣にある研究室「ウェットラボ」でも実際の分析の流れについてご説明をいただきました。読んでも文字のごとく「ウェット」、つまり水や濡れている試料を対象にした分析室です。北極船にも全く同じ目的の研究室がありますので、内装関係について大変参考になりました。(ちなみに筆者の同行者撮影分の写真を見たところ、研究者の説明を聞かずに写真撮影しまくる私の姿が。。。本当に申し訳ありませんでした。)

写真21 ウェットラボです。説明を聞いてない人なんていなかった。

 これでSDAの見学についてはおしまいとなりました。大変お世話になった皆様に、お礼を申し上げ下船しました。
ただ出張自体はこれで終わりではなく、その日のうちにBASの本部所在地であるケンブリッジまで移動しました。ケンブリッジ大学で有名なあのケンブリッジです。到着は夕方でしたが、街中は非常に活気があり、また、古くからの建物も多く建っており大変良いところだという印象を受けました。
 翌日はケンブリッジ郊外にあるBAS本部へ向かい、ここで訪船見学でのディスカッション、建造中の研究船についての発表や情報交換を実施し、大変有意義でした。最後には北極域研究船完工の暁には是非見学にいらしてくださいとのあいさつを行い、今回の出張はおしまいとなりました。

写真22 BAS本部前で

読者の皆様も最後までお読みいただきありがとうございます。
完工後には一般公開も計画しておりますので、皆様もぜひ遊びに来てください!
写真の2名を見つけてくださいましたら、いろいろご説明できると思います。 

それではまた進捗がありましたらご報告いたしますので、次回をお楽しみに!

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