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船はこうして作られる

2024730

ジャパン マリンユナイテッド株式会社  
北極域研究船建造プロジェクトグループ

 北極域研究船「みらいⅡ」は、当社ジャパン マリンユナイテッド横浜事業所磯子工場で建造中ですが、一般の方は船の作り方をご存じないと思いますので、今回は船がどのような手順で建造されるのかをご紹介します。 

 一般的な商船は下図の流れ(工程)で建造されます。商船の場合、船の種類や大きさによって違いますが、引合から引渡まで2~3年かかります。「みらいⅡ」の場合は特殊な船ですので5年以上かかる予定です。また、営業・設計・資材調達・製造・品証など色々な部署が建造に関わっています。それでは各工程について紹介していきます。

 まず船を購入する会社(船主)からこんな船が欲しいという「引合」を受けるところからスタートします。船主の要望に沿う船を具現化していく段階が「基本設計」です。基本設計の大きな役目は、船の大きさや仕様・性能を決定し、建造に必要な費用を見積ることで、非常に重要な役割となります。2022年10月7日付ブログで紹介されている水槽試験もこのタイミングで実施するのが一般的です。船主と造船所が仕様や建造費用で合意し、建造契約を交わして「受注」となります。 

 次の「機能・詳細設計」からが実際に船を作るための本格的な作業になります。「機能設計」は船の全体配置(部屋割り・区画割りなど)を示した一般配置図、船のエンジンを置く機関室配置図、乗組員が生活する居住区配置図など、船の建造に必要な各種配置図を作成します。また、船上の機器を動かすために必要なパイプや電線をどこからどこまで接続するかを示す系統図も作成します。
 「詳細設計」は実際に船を作るために必要な部品製作図を作成したり、取付図を作成したりします。最近は3次元CADを使って、パイプや電線をどこに取り付けるかを検討しています。機能・詳細設計の期間は1.5年程度が通常ですが、「みらいⅡ」は3年以上必要です。

「みらいⅡ」の3次元CADで作成したパイプ取付モデル
「みらいⅡ」の3次元CADで観測機器の動きを確認しています。
NC切断機で鋼板切断中。

 「機能・詳細設計」と並行して「資材発注」作業を行います。船に載せるエンジンなどの大型機器や船体の材料となる鋼材、パイプ、電線、金物などの発注手続きです。その後の納期管理も重要な作業です。

  いよいよここから鋼板を切ったり、曲げたり、取り付けたりして船の形にしていきます。まずは「加工」作業です。この作業では設計図面どおりにNC切断機(数値制御(NC:Numerically Controlled)された熱切断機)等を使って鋼板を切断したり、プレス機を使って曲げたりします。特に複雑な3次元の曲がりはプレス機を使用できないので職人技を駆使して曲げています。

鋼板は無駄にならないように色々な形の部材をパズルのようにならべている。
鋼板を火であぶって、水で冷やして曲げていく、まさに職人技。
自動溶接機を使った小組立作業

 切断した部材を溶接で組み立てていく作業が「ブロック組立」作業です。ブロックとは部材を溶接して、ある程度(おおよそ10メートル前後)の大きさにした船のパーツのことです。「みらいⅡ」の場合は、最終的に85個のブロックを製作します。
 「ブロック組立」は、作業の順番に「小組立」「大組立」「塗装」「ブロック搭載」に分けられます。「小組立」は小さな部材を溶接で取り付けて小さなパーツを製作する作業です。自動溶接機も使っています。「小組立」で製作した小さなパーツを、さらに大きなブロックの形まで組み上げていく作業が「大組立」です。製作したブロックは腐食をしないように「塗装」されます。「みらいⅡ」は現在「小組立」「大組立」「塗装」作業の真っ最中です。
 塗装されたブロックを建造ドックで組み立てる作業が「ブロック搭載」です。いわば、ブロックという積み木をどんどん積み上げて船の形にしていくという工程になります。「みらいⅡ」は約6カ月かけてブロック搭載作業を行います。

小組立で作った小さなパーツ
ブロックにしていく大組立作業
建造ドックでブロック搭載。だんだん船の形になっていく。この写真は「みらいⅡ」ではありませんが、「みらいⅡ」がこのような姿になるのは、今年の秋~冬ごろを予定しています。

建造ドックでのブロック搭載作業が完了するといよいよ「進水」です。船が初めて水に浮かぶ瞬間ですから、造船所関係者の心境はドキドキです。「みらいⅡ」は2025年3月に進水予定です。

建造ドックに注水して、いざ進水。「みらいⅡ」も予定どおり進水できるよう頑張ります。
船内へのエンジン搭載の様子。「みらいⅡ」は今年の10月ごろを予定。

 進水が完了すると岸壁に係船して本格的な「艤装」工事を行います。「艤装」は、大小様々な機器の搭載据付や、パイプ、電線、各種金物を船に取付ける作業です。ブロック組立作業中も先行して「艤装」工事は開始していますが、岸壁では居住区内装工事や電線の結線作業を中心に実施します。「艤装」工事が完了すると、エンジンなどの各種機器を実際に動かして、スムーズに機能するように調整作業を行います。さあ船が海を走るまであともう少しです。

 主要機器の調整作業が完了すると「海上運転」です。「海上運転」は実際に船を海上で走らせて、船が設計どおりの性能・機能を発揮できることを確認するために行います。いわゆる最終テストです。通常5日間程度かけて行われますが、「みらいⅡ」は確認するテスト項目が非常に多いため、2026年5月頃から合計25日間程度を予定しています。

海上運転のイメージです。船が自力で走っています。(船首を見る)
舵を左右に切って船がちゃんと旋回することを確認。(船尾を見る)

 最後は綺麗に身だしなみを整えて工事完了で「引渡」です。船主関係者を招いて引き渡しセレモニーを催して、船主へ船を引き渡し、造船所から出港していきます。「みらいⅡ」は2026年11月が「引渡」予定です。その日まで船主造船所一丸となって建造を進めていきます。

引き渡し式のセレモニー。くす玉が割られ、風船が舞い上がります。
関係者に見送られて出港です。航海の無事をお祈りします。「みらいⅡ」の引き渡しまで、引き続き着実に建造工程を進めて参ります。

(終わり)

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