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北極海に魅せられて

2024107

(2024年9月23日執筆)

東北大学・海洋研究開発機構 変動海洋エコシステム高等研究所
海洋微生物生態系変動研究ユニット
深井 悠里

青い海にぷかぷかと浮かぶ白い海氷と、透き通った空に架かる霧でできた白い虹。現在、海洋地球研究船「みらい」の北極航海に参加している私の前にはそのような美しい景色が広がっています。形容するのも難しいくらい綺麗な「地球の姿」を見られるのは北極海研究の魅力の一つかもしれません。

私は、もともと海が大好きでしたが、北極海に興味を抱いたのには、実は大した理由がありません。学生時代に大学附属の練習船で北極航海を行うと聞き、「長期間の航海楽しそうだな〜」「しかも行き先が北極海なんて、なんかカッコいいな〜」くらいの軽い気持ちで航海に参加したのがきっかけです。しかも、いざ航海が始まってみると、出港地の東京湾を出た直後に恐ろしいくらいの船酔いに襲われ、1週間ほどベッドから起き上がれない状態で、「もう、北極海に行けなくても良いから寄港地のダッチハーバー(米国アリューシャン列島の小さな島)で下船したい…」と1万回くらい唱えたほどです。

そんな私が北極海の研究を今も続けているのは、この海の移り変わりの早さを目の当たりにしたからかもしれません。私が学生時代に乗船した2度目の北極航海(初の北極航海で、船酔いで辛い思いをしたにも関わらず、翌年にも乗船しているのは置いておきましょう)は、北極海の海氷の融解時期が非常に早かった年に行われ、様々な研究者が生物への影響を報告する結果となりました。加えて、自身のデータからもこの海氷融解イベントの影響を垣間見ることができ、「変わりゆく北極海」という物語を読み始めた気分になり、その「続き」が気になるようになりました。その物語は終わるはずもなく、そんな訳で、今に至るまで研究を続けています。

私の研究対象は「植物プランクトン」と呼ばれる髪の毛の太さよりも小さいような生物です。海での光合成のほとんどは、この小さな生物に支えられ、海洋生態系のエネルギーの基盤となっています。植物プランクトンの光合成には光と栄養が必要ですが、面白いことに、海氷によって海が閉ざされ、かつ、光合成ができない真っ暗な極夜が存在する北極海においても、春になって海氷が融けて光が海中へ届くようになると、植物プランクトンの爆発的な大増殖が起きるのです。この植物プランクトンの大増殖は咲き誇る草花になぞらえて「ブルーム」と呼ばれますが、なぜ北極海においてもこのようなブルームが起こるのか、環境が変わりゆく中でブルームはどのように変化しているのか、といったことに現在は興味を持っています。

…と、ここまで、研究について少し真面目な話調になってしまいましたが、私が研究を続けることができている最も大きな理由はフィールドワークの楽しさに病みつきになっているからでしょう。北極海の水の冷たさを文字通り肌で感じながら海水を採り、海氷の色や形、大きさを実際に目で見て感じながら処理する。そのような経験が私の心の奥をくすぐり、研究のモチベーションを高めてくれます。今現在ちょうど参加している海洋地球研究船「みらい」での北極航海でも、毎日心の奥をくすぐられています。加えて、乗組員さんや観測技術員さんの素晴らしいサポートを含め、観測船での研究は、何ものにも代えがたい素晴らしい「洋上の研究所」であることを実感しています。

こんな楽しくて素敵な環境で研究ができるなんて、「あのとき、船酔いなんかで折れなくて良かった」と思います。

写真は北極海で出会った素晴らしい景色の一部です。

「パンケーキ アイス」と呼ばれる平たい氷が一面に広がっている様子
無数の海氷たち
霧でできた白い虹
絵画のような景色
ときにシロクマに出会うことも

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