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2024年のウトロ海氷観測の速報

2024328

海氷波浪観測共同研究チーム

(JAMSTEC /海上技術安全研究所/東京大学/北見工業大学/日本無線株式会社)

北海道斜里郡斜里町ウトロは、世界遺産でもある知床半島の付け根に位置する港町です。冬季の一部時期にはオホーツク海の流氷(漂流している海氷)が岸にまで到達し、それに陸地から直接アクセスできる珍しい地域です。私たち共同研究チームは、この地域に海氷や波浪を観測するためのレーダー(JAMSTEC海氷波浪レーダー)を設置し、沖合の流氷や波浪およびそれらの干渉についてのデータを取得するとともに、流氷到来に合わせて氷上を実踏計測する観測をここ数年間に渡って実施しています。 

海氷はサイズや形が様々で、さらに互いにぶつかって割れたり乗り上げたりすることで、凹凸のある複雑な形状になることがあります。レーダーで海氷を見ると、そうした形状を反映した映像が得られるため、海氷の分布や種類を判別するのに大変役立ちます。レーダーのレンジは数キロメートル以上あり、夜間や濃霧などで視程がない時でも周囲の状況を探知できるので、北極域研究船「みらいII」のように極海を進む船にとっては、なくてはならない装置となるのがお分かりでしょう。そのことを踏まえ、私たちの共同研究では海氷や波浪を明瞭に判別できるレーダーシステムを開発し、それを「みらいII」に搭載することを主な目的としています。 

JAMSTEC海氷波浪レーダーは、2つのレーダーで構成されています。両方ともX(エックス)バンドという周波数帯の電磁波を発射してその反射を受信するもので、数十メートル程度の分解能を持っています。2つあるのは受信する電磁波の方向性が違うからで、片方は水平、もう片方は垂直な電磁波を受信します。このような方向性が定まっている波を偏波と言います。同じ物体でも水平偏波と垂直偏波に対する反射が異なることを利用すると、結果として対象の性質を多角的に把握することができるのです。 

さて、今年も2月末に氷上の実踏計測を実施しました。氷上を歩いてレーダーで観測している地点に行き、そこでの氷をサンプリングして形状や構造を確認します。もちろんその地点は氷とはいえ海の上。万が一水に落ちても良いようにドライスーツを着用し、現地ガイドさんの指示を受けながら慎重に進みます。ちなみに、この地域ではこうした「流氷ウォーク」とも呼ばれるガイドツアーが観光として行われています。気象や氷の動きなど様々な条件が整わなければ実施できませんが、船も使わずに流氷の上を歩くことができるチャンスは世界の中でも希少だと思いますので、機会があればぜひお試しください。 

今回計測対象とした流氷は、力学的変形が大きな氷、つまり乗り上げたり重なったりを繰り返して、厚さもその分増した氷でした。積雪層は深いところで約8センチメートルありました。積雪層をスコップで取り除いた後、コアドリルを用いてコアを採取しました。コアを観察し、深さごと塩分や電気伝導度を測ることで、氷の内部構造を知ることができます。ここでのコアの深さ、すなわち氷の厚さは、最大で314センチメートルでした。この時の気温はだいたいマイナス2℃からマイナス3℃。ですが風が強かったので、体感としてはより寒く感じました。 

極海で船が氷の中を進む際、周囲の海氷の状況(氷況)を確認する手段には、レーダーの他に空からの観察があります。例えば、南極に行く「しらせ」のような砕氷船では、搭載しているヘリコプターを航路選択のための氷況確認にも活用しています。最近では空中ドローンの技術が進み、簡単な観察ならごく手軽に行えるようになりました。ただし、空中ドローンは一般的には風に弱く、飛行可能な気象条件がやや厳しいのが実状です。今回は空中ドローンを3種類持ち込みましたが、風が強かったため、氷上計測と同時に飛ばすことができたのはごく短時間でした。とは言え、空中ドローンには色々なカメラや計測機器を搭載することも可能で、いまや海氷の観測に欠くことはできません。「みらいII」でも空中ドローンを常備することが検討されており、今後も応用が期待される技術のひとつといえます。 

最後に、もう少しだけウトロ地区の観光案内をしておきます。JAMSTEC海氷波浪レーダーは、ウトロ港を見渡せる高台に建つ宿泊施設「知床夕陽があたる家ONSEN HOSTEL」の屋上に、そこを管理する「北こぶしリゾート」のご協力のもと設置されています。この施設は海側に広く面しており、海氷の観察に最適であるだけでなく、冬季以外でも眺めが美しいので一見の価値があります。また、この地域はクマとの共生を目指す活動でも有名です。知床は知床五湖などのフィールド散策が大きな魅力のひとつですが、それは野生の息吹を感じられる感動と危険を併せ持っています。市街地より少し山を登ったところにある「知床自然センター」などのビジターセンターでは、フィールドに関する各種資料や専門家によるガイダンスを得られるので、そこで知床の自然についてしっかりと理解を深めてから楽しんでください。

写真1:ウトロ港の防波堤を囲むように押し寄せた流氷 レーダーが設置された高台から見たところ。雪が積もって陸地のようにも見えますが、遠くの水開きが示すように完全に海です。
写真2:観測中のJAMSTEC海氷波浪観測レーダーの空中線(アンテナ) 5階の建物の屋上に設置されています。旋回直径は約3メートルで、1分間に20回転以上の速さで回っています。2台ありますが、手前が水平偏波、奥が垂直偏波のものです。
写真3:積み重なった流氷 海氷の形は実に多様です。板状の海氷が割れ、それがお互いに押し付けられて、大きな氷片が自然に組み上がっていきます。その高さは北極海では人の背丈を越えることもありますが、実は水中にも同じような形ができており、その深さは通常高さの何倍にもなります。
写真4:切り出した海氷を横から見たところ 性質の異なる平面的な層が重なった構造になっています。成長期の海氷は、上には雪が積もって凍り、下では氷が伸びていくことで、全体的に厚さが増えていきます。このような厚さの増え方の違いが、断面に層状の模様となって現れます。
写真5:氷の上で見つかった動物の足跡 誰が何を求めて降りて来たのか分かりませんが、海氷の上に草木はなく、たまに鳥が休んでいるくらいで、食べ物は見つかりそうにありません。靴も履いていないようで、冷たくないのでしょうか。

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