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北極域の氷海で「もしも」が起きたら? - 極域サバイバル訓練報告 -

2026520

株式会社商船三井
北極域研究船プロジェクトチーム

北極域研究船「みらいⅡ」は、氷に覆われた海でも調査や観測を行うことを想定した研究船です。
極域における航海では、高緯度特有の気象海象や日出没時間、厚い海氷といった環境に直面することになります。

北極域の氷海で「もしも」が起きたら?もしも航海中に本船でトラブルが起き、船から離れなければならなくなった場合、そのような厳しい環境に耐えて救助を待たなくてはいけません。また通常の海域に比べて救助に時間がかかることも考慮しなくてはなりません。
そのため、船員及び乗船者一人ひとりが厳しい環境の中でも落ち着いて行動し、仲間と助け合いながら命を守る力を身につけることがとても重要です。

この「もしも」に備えるため、本年2月下旬に北海道・オホーツク地域で冬季のサバイバル訓練を実施しました。極域に特化したサバイバル訓練は国内では初めての試みとなります。

写真➀ 参加者と講師陣

訓練は、いきなり体を動かすところから始まるわけではありません。
最初は室内で、北極域ならではの環境やリスクについて学ぶ座学からスタートしました。

  • 気温や風が体に与える影響
  • 氷のある海で起こりうるトラブル
  • 緊急時に必要となるサバイバル装備
  • ホッキョクグマなど、極域特有の危険への考え方
写真② 座学の様子
写真➂ テント設営についての講義

本船を離れて避難する上で、「なぜその行動が必要なのか」を理解し実技訓練に進みます。

次に行ったのが、紋別港内での遊泳訓練です。
本船上に残ることが危険になり、やむを得ず総員退船した状況を想定しています。

写真④ 岸壁からの飛び込み訓練
写真⑤ 縦列での遊泳訓練

本船からの避難のためには救命艇や救命いかだといった設備もありますが、総員が乗り込む時間の余裕が無い場合は、イマーションスーツと呼ばれる防寒・防水の救命用スーツを着用して海中に飛び込む必要がある場合も考えられます。

参加者は、このイマーションスーツを着用して実際に冷たい海へ入ります。
水温はほぼ0度。日常生活では経験することのない環境です。

海に入ったあとは、

  • スーツを着たまま泳ぐ
  • 仲間同士で声をかけ合い、固まって行動する

といった訓練を行いました。
全員が離れないように固まり繋がること、また捜索に来た航空機や船舶から見つかりやすいような形を作って浮かび、遊泳する方法を学びました。

場所を移し、凍結したサロマ湖上での訓練を行いました。

写真⑥ 凍結したサロマ湖上での歩行訓練

ここでは、

  • 氷の上を歩く体験
  • ケガや体調不良を想定した応急手当
  • 火を起こし、体を温めたり調理する方法
  • 氷が割れて水に落ちた場合に、どうやって氷の上へ戻るか

といった内容を実際に体験しました。

特に、水に落ちたあと氷の上へ戻る訓練では、
「焦らず、正しい手順で動くこと」が命を守ることにつながると実感する場面となりました。

写真⑦ 応急手当に関する訓練
写真⑧ 海中から氷上への脱出訓練

訓練の後半では、本船から海氷上へ避難することになった状況を想定して、紋別市の流氷海岸で48時間にわたる野外サバイバル訓練を行いました。

この訓練では、

  • 膨張式の救命いかだ(ライフラフト)を実際に広げる
  • 氷上で寝泊まりするための設営を行う
  • 雪を掘って風や寒さを防ぐシェルター(雪洞)を作る
  • 雪や氷を溶かして飲み水を確保する

といった内容に取り組みました。

寒さや風の中で過ごす時間は決して楽ではありませんが、「どうすれば少しでも体力を消耗せずに耐えられるか」を、仲間と相談しながら考えます。ここでは講師と受講者との接触は最小限となり、受講者自らがグループの中で役割分担し協力しながら考え判断し行動することが求められました。

より現実感を高めるため、実際の避難を想定してテント・寝袋をはじめとする機材も人数分はありません。テントの代わりに救命いかだの中で休んだり、救命いかだに入りきれない人は外で寝袋に入って休むなど、交代で休眠を取りながら夜を過ごしました。

一方、サバイバル訓練の目的は、ただ耐えることだけではありません。
捜索してもらい、連絡を取り、救助につなげるところまでが訓練です。
外部との連絡や集合を想定し、「どうすれば自分たちの存在を伝えられるか」「安全に救出されるにはどうするか」を考えながら訓練を行いました。

写真⑨ 救命いかだでの避難
写真⑩ 夜間の見張り
写真⑪ 海氷を溶かして飲料水を確保
写真⑫ 極寒の夜を耐えて迎えた朝

訓練終了後には、参加者全員で振り返りを行い、下記の点を確認しました。

  • 実際にやってみて初めて分かったこと、実感したこと
  • 装備や行動で改善が必要だと感じた点
  • 極域での安全を守るために、今後さらに準備すべきこと

今回のサバイバル訓練は、極域という特別な環境で「命を守る力」を身につけるための大切な一歩でした。こうした気づきを共有し、次の訓練や実際の運航に活かしていきます。今回の訓練はみらいIIの乗組員候補のみで実施しましたが、今後はみらいIIに乗船する観測技術員や研究者の参加も検討する予定です。
今後も得られた経験を積み重ね、極域での安全な運航を実現していきます。

末筆になりますが、今回の訓練にあたり、全面的にご協力をいただいた公益財団法人 オホーツク生活文化振興財団(紋別生涯学習センター・北海道立オホーツク流氷科学センター・紋別市健康プール)の皆様、北見工業大学・舘山教授、また実施に際してご許可をいただいた、オホーツク総合振興局・紋別市役所・第一管区海上保安庁・湧別漁協・佐呂間漁協・常呂漁協・浜佐呂間駐在所・佐呂間駐在所・北見地区消防組合消防署常呂支所の関係者の皆さま、講師を派遣いただいたPolar Operation社及びAlpine Welten社の関係者の皆さまには深く感謝申し上げます。

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